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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)2768号 判決

控訴人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 中井川曻一

被控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 杉下弘之

主文

一  原判決主文第二項のうち、控訴人被控訴人間の長男一郎(昭和五一年一月八日生)の親権者を被控訴人と定めた部分を取消し、同人の親権者を控訴人と定める。

二  控訴人のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決主文第二項及び第六項(財産分与請求部分)を取消す。

2  控訴人と被控訴人間の長女春子(昭和四七年九月二七日生)、長男一郎(昭和五一年一月八日生)の親権者をいずれも控訴人と定める。

3  被控訴人は控訴人に対し、金七〇〇万円(財産分与請求棄却分)を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示及び当審証拠目録記載のとおりである。ただし、次のとおり付加訂正する。

1  原判決三枚目表末行目の「維持しようとと」を「維持しようと」と訂正する。

2  同八枚目裏四行目の「思われたのが」を「思われたが」と訂正する。

3  同一〇枚目表五行目の「前述のとおり」の次に「で」を加える。

4  同一〇枚目表七行目の「本反訴訴」を「本反訴」と改める。

5  同一一枚目表一〇行目の「一二〇〇」を「一〇〇〇」と改める。

理由

一  親権者の指定について

1  原判決一二枚目裏二行目から同一七枚目表六行目(たゞし、同行目の「見当らず」を「見当らない。」に改める。)までを引用する。

2  ところで、父母が離婚するに際し、未成年の子の親権者の指定は、いずれが親権を行使する方が子の福祉にとって望ましいか、という観点により決定される。右に認定した事実によれば、被控訴人も控訴人も、一応はその監護能力について格別の長短は見当らず、親権を行使することについての熱意も同等のものと認められる。ところで、《証拠省略》によれば、被控訴人は夫婦別居中、二人の子、とりわけ長男の一郎に対して折かんを加えるなど暴力を行使していることが認められ、その程度も父親が子に対してなす躾けと評価し得る範囲を超える場合もあるものと認められ、両者の間に健全な父子関係が形成されているかどうか多分に危惧されるところ、このことと前認定のとおり本件婚姻が両者の性格の相違と、夫から妻に対する有形力の行使等により別居を繰返した挙句破綻するに至ったという経緯に照らすと、被控訴人が二人の子の親権者として控訴人より適当であるとは必らずしも言い難いばかりか、父親の暴力行使の対象となり易い息子については、むしろ、被控訴人は、親権者として多分に懸念されるところがあるということができ、控訴人の方が親権者として適任ではないかと考えられるのである。

一般に、複数の未成年の子はできるだけ共通の親権に服せしめる方が望ましいが、或る程度の年令に達すれば、その望ましさは必ずしも大きいものではないと考えられる。本件の場合、春子は一五才、一郎は一二才であって別々の親権に服させることが不合理であるような場合ではない。又、一応、五年間以上も被控訴人の許で監護養育されて来た事実も軽視できないが、これは控訴人被控訴人両者の合意に基づくものではない。

春子は高校進学の年令であり、その生活環境に変更を加えるのは好ましくなく、又、《証拠省略》によれば、控訴人との同居を必ずしも望んでいないと考えられる。次に、一郎は中学進学の年令になったばかりであり、又、《証拠省略》によれば、控訴人と被控訴人との選択に迷っていると考えられる。

以上の検討の結果、結局、当裁判所は、長女春子は父である被控訴人、長男一郎は母である控訴人、とそれぞれ親権者を指定するのが相当であると判断する。

二  財産分与について

原判決一八枚目表一行目から同裏末行目までを引用する。なお、当審提出の証拠も右判断を左右するものではない。

三  以上のとおりであるから、原判決主文第二項のうち、控訴人被控訴人間の長男一郎(昭和五一年一月八日生)の親権者を被控訴人と定めた部分を取消し、同人の親権者を控訴人と指定し、控訴人のその余の控訴は民訴法三八四条によりこれを棄却する。訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条。

(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 菅本宣太郎 秋山賢三)

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